光と影 海外進出企業10社の奇跡 / (財)機械振興協会経済研究所、NOMA総研、(株)日本経営協会総合研究所

「現地化」の哲学を貫海外事業展開  アルプス電気

アルプス電気のスタートは、創業者である現会長片岡勝太郎氏が昭和28年に東芝を退社し、「片岡電気」を設立した時に遡る。
創業当事はラジオ用ロータリースイッチのメーカーであった。これが最初のヒット商品となった。
片岡氏が電子部品メーカーとしてスタートしたのは、第一に元東芝の無線部であったこと、第二に上海事変で通信将校として上海で部品を購入し、
送信機をつくる仕事に従事したことにある。その当時購入した部品はすべて欧州製品で日本製はまったくなかった事にショックを受け、
世界一の電子部品メーカーを目標にしたのである。そして社名を「アルプス電気」と改称し現在に至る。
アルプス電気が属する電子部品業界は現在、世界の全需要の50%強を供給しており、その競争力が突出した業界である。
同業界の海外進出は歴史が比較的古く、その始まりは台湾に初めて進出した1958年に遡る。

海外進出の今日までの歴史経過を眺めると、海外進出のラッシュは2つの時期に分けられる。
第一は1971年から1975年までの5年間であり、主として海外の安い労賃を求めて進出企業が相次いだ時代である。
この時期には、台湾、香港、韓国、シンガポール、マレーシアなどのアジア地域への進出が盛んであった。

第二は1986年以降の本格的な円高時代である。
電子部品企業の進出がアジア地域に集中しているのは、進出先における安い人件費のメリットを享受することが大きな理由であると言えるだろう。
ゆえに日本の電子部品の海外生産比率が際立って大きくなり、わが国の電子部品が世界の総需要の約半分を供給している理由の1つとしてあげられる。

品目別の海外生産比率を見てみると、
①トランス38.2%
②アルミ電解コンデンサ31.5%
③ハイブリッドIC29.6%
④コイル28.7%
⑤フィルムコンデンサ22.5%
⑥磁気ヘッド21.0%
となっている。

このようにわが国の電子部品産業は他の産業に比べて、生産活動のグローバル化が進んでいることが大きな特徴である。
アルプス電気の海外進出は1954年の初輸出、1936年のニューヨーク事務所の開設に始まった。
その後、本格的な海外事業展開は1970年に韓国、台湾において始まり、ブラジルにも展開した。
したがって、同社のグローバル化の歴史は業界でも長い。
このような生産拠点づくりは、同社の海外進出の「第一段階」と位置付けられている。
その大きな狙いは「技術移転」にあった。
つまり、同社の技術を進出諸国にもっていき、現地産業を興すことが大きな目的であった。

海外進出の「第二段階」は1970年以降のアメリカ、ヨーロッパにおける生産拠点の設置である。
そして、この時代の進出の目的は「貿易摩擦解消」にあった。
まず、アメリカについて見てみると、日本製カラーテレビに対するダンピング問題が発生したため、
この問題に対応するため同社は現地生産に乗り出すことになった。

一方ヨーロッパへの進出は、販売面では1966年のデュッセルドルフ事務所の開設、
生産拠点としては1984年のアルプス・UKの設立が始まりである。
それ以降、ドイツ、スコットランド、アイルランド、フランスなどヨーロッパ過各地に生産拠点を設置した。
ヨーロッパへの進出のきっかけは、ヨーロッパにおけるローカルコンテンツ(現地調達率)の引き上げに対応するためだった。

海外進出の「第三段階」は進出時期は「第二段階」と重なっているが、
1985年以降のNIES諸国とASEANにおける生産拠点の設置である。その大きな目的は「円高対策」である。
韓国や台湾のNIES諸国においては、近年労賃が高くなっており、低コストのメリットはほとんどなくなっているが、
それでも進出した理由は、NIES諸国では従来よりハイレベルな電子部品を生産しようとしたためであった。

ASEANへの同社の進出は、1989年末におけるマレーシアへの生産拠点づくりが最初である。
マレーシアはすでに世界有数の家電供給基地であり、日本へのセットメーカーが多数設立されていたため、
アルプス電気の進出は、セットメーカーから同社への強い進出要請によって行われたものであった。

以上のように同社は1970年に韓国と台湾で現地生産を始めてから約20年を経て日本、米国、欧州、アジアの四極体制を確立するに至った。
近年ではアジアの中でも日本に近くて物価の安い中国の占める比率が大きくなっている。

そして、アルプス電気が世界に進出成功した要因には「現地化」という基本哲学があった。
つまり、進出国において、日本で培った製造技術によって現地産業を興し「技術移転」を行い、
現地人によって経営を行うことによって「現地化」をはかることである。

そして「現地化」の一環として「現地化によって得た利益は、現地に還元して国際協調に貢献する」という方針を掲げている。
このような考え方を経営理念とする同社の海外事業展開は、低賃金を求めて渡り歩く多くの日本企業とは極めて対照的である。
「現地化」の実践は、現地従業員および地域住民の同社に対するイメージを向上させ、
信頼感を強化させることに大きく貢献していることが注目される。

 

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